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「公立宇出津総合病院での1ヶ月」 <初期研修医2年目 加藤 秋太>

2017年5月1日から1か月間、石川県鳳珠郡能登町にある能登町立宇出津総合病院で地域医療研修をさせていただきました。ここにご報告させていただきます。

【石川県鳳珠郡能登町(参照 日本医師会HP、Wikipedia)】
石川県の能登半島の北部に位置する町です。2005年に能都町、柳田村、内浦町が新設合併し誕生しました。面積は273.27㎢、人口は16,829人(2017年4月)です。1970年には、今の能登町に該当する地域には33,138人いましたが、約半数に減少しています。人口密度61.6人/㎢です。ちなみにさいたま市の面積は217.43㎢で、能登町のほうが大きいですが、さいたま市の人口密度5,890人/㎢です。あまりの差にむしろどれだけなのかわかりにくいかもしれません。65歳以上の高齢者人口は全体の45.7%、75歳以上の後期高齢者人口は25.6%を占めており、かなり高齢化が進んでおり、人口に比して医療を求める患者さんは多くいらっしゃいます。
ちなみに私の地元は富山県氷見市という、富山県の中でも石川県側の端っこ、ほぼ能登半島の付け根に位置し、同じにように海と山に囲まれた田舎で育ちました。宇出津に到着した時、地元とあまりかわらない風景だったので他の先生に比べ、リアクションは薄かったかもしれません。
名産品としては、病院のすぐそばの宇出津港であがるのと寒ブリをはじめ、多種多様で新鮮な海の幸が豊富に獲れます。病院の周囲にもお寿司屋さんや地魚料理をメインとした料亭が数多く並びます。また能登の豊かな自然ときれいな空気で育まれた水から作られる地酒も有名で、世界的に有名な酒蔵も存在します。農産物では能登の里海里山のいちご、ブルーベリーなどが世界農業遺産に指定されています。
名所としては、九十九の入り江からなる美しいリアス式海岸の九十九湾は日本百景の一つに数えられています。また縄文時代の集落遺跡である真脇遺跡があり、出土品は国の重要文化財に指定されています。
また12月に行われている「奥能登のあえのこと」というお祭りはユネスコの世界無形遺産に登録されています。「あえのこと」とは「アエ=饗=ごちそう」の「コト=祭り」を意味します。その他にも地元のお祭りは盛んに行われています。

病院から徒歩3分の景色。   少し海から離れると。


【能登町立宇出津総合病院】

石川県能登町が経営主体である公立病院です。病床数は一般病床120床、平成27年度は外来患者数454人/日、入院患者数85人/日で、能登町では最多の病床数を持ち、能登町の中核的病院として機能しています。
スタッフは2017年4月現在、常勤医は内科医師5名、外科医師5名、整形外科医師2名、耳鼻科医師1名、眼科医師1名、皮膚科医師1名、小児科医師1名の計16名となっています。地域の中核病院とはいえ、さいたま市立病院に比べるとかなり少人数です。先生方の多くは金沢大学や金沢医科大学に在籍しておられ、先生方の中には金沢市に家族を残して、単身で宇出津の官舎で寝泊まりして、週末金沢に帰る先生も多くいらっしゃいました。すべての科の医師が常勤しているわけではないですし、医療設備の点からもどうしても他の病院と連携し、補い合う必要があります。例えば、脳出血で緊急手術が必要な患者さんは、宇出津から道のり25㎞の珠洲市総合病院へ、心筋梗塞でPCIが必要な患者さんは、道のり70㎞の七尾市の恵寿総合病院へ搬送になります。産婦人科もありませんので、お産も珠洲市総合病院か同じほどの距離にある穴水総合病院に行くことになります。医師が少ないながらも、能登地域の病院間でお互いにカバーし合っています。

【主なスケジュール】
私は外科医舟木洋先生の指導の下、診療させていただきました。
●月曜日 病棟回診、外来、GF、粉瘤切除術、幽門側胃切除術、検体整理
●火曜日 病棟回診、術後創処置、外来、GF、瑞穂診療所、ERCP、イレウス管造影検査
●水曜日 病棟回診、外来、CVポート留置術、訪問看護、内痔核切除術、緊急GF
●木曜日 病棟回診、術後創処置、外来、GF、救急診療、緊急PTGBD、CF、救急当直
●金曜日 病棟回診、外来、気管切開術、胃瘻造設術、術前カンファレンス、NST勉強会

【病棟診療】
私が受け持った患者さんは、悪性腫瘍や胆石等の手術目的の患者さん、ERCPなどの検査目的の患者さん、手術後などで外科かかりつけの方の肺炎や心不全などの内科疾患発症の患者さん、外科疾患、内科疾患問わず救急外来で救急対応した患者さんなどでした。舟木先生は外科医ですが、外科という枠に捉われず、幅広い患者さんを診ておられました。また、同じように他の科の先生方も幅広い疾患の患者さんを診ておられ、困ったことがあれば、お互いに相談しあい、科の隔てがほとんどない印象でした。当院と同じ急性期病院ではありますが、他の病院も少ないため、一部、療養型病床としても機能しています。近くに住む患者さん、ご家族は大変助かっているようです。また地域包括病床というのを15床備えています。急性期病床は在院日数が原則20日以内ですが、原疾患の治療が落ち着いたが、自宅退院にはもう少し栄養改善やリハビリテーションなどが必要という患者さんが、在院日数をさらに60日以内まで伸ばし、ADL向上に専念する病床です。例えば、大腿骨頚部骨折で急性期病床に入院し、手術を行い、術後経過は良好、あとは自宅退院に向けてリハビリテーションを頑張ろう、という患者さんが、地域包括病床に入りリハビリテーションに専念します。なかなか遠くのリハビリテーション病院に転院とはいかない、地域ならではの病床だと思います。

【外来診療】
私たち初期研修医は病棟診療、救急外来診療は多く経験させてもらっていますが、特に定期受診の外来診療を行うことはなかなかありませんでした。当院での手術後の患者さんをはじめとしたかかりつけの患者さんの定期診療をさせていただきました。新たな体調の変化はないか、術後の創は問題ないか、詳しい検査、入院の必要性はないか、新たな薬剤の開始、以前からの必要ない薬剤の中止、次回の外来はいつにするべきか、大勢いる外来患者さんの診察、カルテ記載をいかに要点を絞って行うかなど、普段の病棟、救急診療ではなかなか学べないことをたくさん学ばせていただきました。また救急医を目指す私にとっては、外傷で来られた患者さんの創処置、その後の経過フォローの頻度から終診のタイミングまで、特に勉強させていただきました。

【手術】
全身麻酔の手術は、1か月間で5件入らせていただきました。驚いたのは、麻酔科医はいないので、執刀医自らが麻酔導入を行い、気管挿管し、麻酔維持は手術を行いながら看護師さんに口頭指示で行っていました。術野に集中しながらも、モニターや尿量にも気を配っていました。また、全身麻酔での手術ではありませんが、CVポート留置術や胃瘻造設術は、さいたま市立病院では私は経験がなかったので、非常にいい経験をさせていただきました。

【救急診療、当直】
日中の救急外来は曜日ごとに当番の先生がお一人で対応し、夜間も基本的には当直の先生お一人で対応しており、コンサルテーションが必要ならば、他科の先生に来ていただくといったシステムでした。驚いたことに、基本的には他科疾患であろうと看護師さんがよほどの3次救急患者でない限り断りません。「先生こういう患者さんが来られました。」と起こされます。外科の先生が心不全治療を行いますし、内科の先生が創処置を行います。もちろん先生方は大変慣れていらっしゃいます。必要な時は気軽にコンサルテーションも行うことができる環境でした。近くには大きな急性期病院は宇出津総合病院しかありませんし、地方では特に病院と患者さんの信頼関係が必要であるため、断れないと先生はおっしゃっていました。

【瑞穂診療所】
毎週火曜日に小森栄誉院長先生が、宇出津総合病院から海沿いを南西に20分程車を走らせ、能登町立瑞穂公民館へ向かいます。ここで週に1度、公民館を診療所として開放し、近くにお住いの患者さんの診療にあたっています。もともとはこの地区で唯一開業されていた先生が引退されて、診療所がなくなってしまったので、なんとかせねばと先代の院長先生が立ちあがったのが始まりです。患者さんは1日約10人で、多くの方は笑顔で来られ、定期的な診察、処方を受け、笑顔で帰って行かれます。ここで行える検査は主に心電図、エコー、単純X線撮影のみで、検査が必要な患者さんに検査を行い、必要があれば点滴による薬剤投与を行ったり、場合によっては宇出津総合病院を含めた大きな病院に搬送になります。ここに来られない患者さんは家までお迎えにあがることもあるようです。患者さんの層は宇出津総合病院の外来に比べても、さらに高齢の印象です。ところが、あきれるほど元気です。どんなに腰や膝が痛かろうと、どんなに息が上がろうとも、畑仕事をやめません。小森先生も脱水症や急性心不全にならないかと心配でしょうがないようです。この診療所で一番の人気商品は通称“おしりの注射”、骨粗鬆症の薬のエルカトニンの筋肉注射です。「先生、今日もおしりの注射して」と半分以上の患者さんが言います。

唯一の診察室。小森栄誉院長と見ているのは単純X線画像。カルテは全て紙カルテ。   みなさんここに来て、小森栄誉院長の診察を受けること、集まったご近所さんと世間話することが楽しみのようです。。

 
「お化粧してないから」とまだまだお若い患者さん。夏になると畳の部屋に布団を敷いて、大勢の患者さんが並んで点滴を受けながら井戸端会議が行われます。    

【訪問看護】
宇出津総合病院では、在宅の患者さんの訪問看護も行っています。一般的に訪問看護は訪問看護ステーションの管轄で、主に診療所の先生と連携して行っております。しかし宇出津総合病院では、病院の看護師さんが、普段の外来や病棟業務などを行いながら、合間をぬって毎日5軒ほど、なかなか病院まで来ることができない、在宅での医療が必要な患者さんの家に足を運んでいます。毎週水曜日には滝川名誉院長先生が一緒に訪問し、診察を行っています。遠いお家では車で片道約30分かかります。私も同行させていただきました。患者さんは悪性腫瘍で緩和ケアを行っている方や、脳出血後で寝たきりになってしまった方などでした。「在宅で安心して暮らしていただけるようにお手伝いする」ことを心がけていると看護師さんはおっしゃっていました。訪問看護では、患者さんの病状も大事ですが、誰と暮らしているか、家族は協力的なのか、経済的に余裕はあるのか、その他の介護サービスとの連携はうまくできているのか、なども大切です。ほとんどの患者さんはご高齢で、ご家族は同世代の奥さんと二人暮らしだったり、お一人暮らしの方が多いです。そんな中、看護師さんが訪れると、患者さんもほっとした顔を見せます。ご家族への服薬管理、食事管理、尿道バルーンカテーテルの管理や褥瘡処置を指導するのも訪問看護の役割です。患者さんと同じく高齢の奥さんにも体調は大丈夫かと伺うと、「夫のために休んでられないよ」と笑顔を見せます。長生きするには優しくて丈夫な奥さんが必要だと学びました。

 
白衣でお家にあがるのは、なんだか新鮮でした。   高齢者診療には欠かせない医療器具。

 
奥さんお手製のお茶と和菓子。ごちそうさまでした。   奥さんお手製の田んぼと畑。どのご家庭もご自慢の一品を紹介してくれます。


【総括】
1か月間研修をさせていただいて、地方ならではの求められる医療、医療過疎の問題点、新鮮なお魚の味など、大変多くのことを学びました。私は将来的には地元の富山県で地域医療に携わりたいと思っています。そんな私にとってこの1か月間の研修は非常に貴重な経験になりました。この経験を将来必ず活かしたいと思っています。
最後に、長谷川啓院長先生、小森和俊栄誉院長先生、滝川豊名誉院長先生、指導医の舟木洋先生をはじめ、先生方、スタッフの皆さん、患者さんには多くのこと学ばせていただいたことを感謝申し上げます。
 
滝川名誉院長に御馳走になった、宇出津のお寿司屋さん。鮮度が全然違います。   そもそも病院での昼食が豪華です。

 
能登半島の4病院が集まっての勉強会。懇親会でも豪華な懐石料理。   能登町の至るところに“かかし”がずらり。異様な光景です。詳細は「猿鬼健康大会」で検索。

 
瑞穂診療所の帰りに小森栄誉院長と海を背に。   もちろん観光もしてきました。お隣の輪島市の「白米千枚田」。

 
海がものすごくきれいでした。   観光客で賑わう「輪島朝市」。

 
能登で採れた野菜や鮮魚を中心に、たくさんの店舗が並んで、大賑わいです。   輪島市は漆塗りでも有名です。きれいな漆塗りの商品もたくさん並んでいました。

 
輪島市のお隣、志賀町の「世界一長いベンチ」。目の前には日本海が広がる460mのベンチはギネスブックにも登録されています。   さらにお隣の羽咋市「千里浜」。実はここ、日本で唯一、波打ち際を車で走れる海岸なのです。

   
二次会は決まってスナックです。先生方、宇出津の皆さん、大変多くのことを学ばせていただきました。ありがとうございました。    



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